東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5295号 判決 1963年9月25日
判 決
東京都中央区月島通一〇丁目一〇番地
原告
田中吉松
同所同番地
原告
田中セツ
右両名訴訟代理人弁護士
井田邦弘
右訴訟復代理人弁護士
井田恵子
東京都港区芝浦二丁目一番地
被告
東京港機械荷役株式会社
右代表者代表取締役
大石義光
横浜市保土ケ谷区星川町三丁目五四五番地
被告
斉藤明
右両名訴訟代理人弁護士
双川喜文
右当事者間の昭和三七年(ワ)第五、二九五号損害賠償請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
1 被告等は、各自、原告田中吉松に対し金五八九、四〇一円、原告田中セツに対し金四九六、六一〇円及び右各金員に対する昭和三七年七月二九日以降右完済に至るまでの年五分の割合の金員を支払え。
2 原告等のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告等の平等負担とし、その余を被告等の連帯負担とする。
4 この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実
原告等訴訟代理人は「1被告等は、各自、原告田中吉松に対し金一、二三四、八〇二円、原告田中セツに対し金一、〇四三、二二〇円及び右各金員に対する昭和三七年七月二九日以降右完済に至るまでの年五分の割合の金員を支払え。2訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、被告斉藤は、昭和三六年一一月一一日午後五時五分頃、被告会社所有の特殊自動車(所謂トレーラートラツク、登録番号一す六、九七三号、以下被告自動車と略称する)を運転して東京都中央区晴海町三丁目三番地先交差点(通称晴海交差点)を右折しようとしたところ、反対方向から直進して来た訴外亡田中稔運転の自動二輪車(以下原告自動車と略称する)と右交差点内において衝突し、この事故のため亡稔は、同月一六日死亡した。
二、(以下省略)
理由
一、原告主張の日時、場所において、原告自動車と被告自動車が衝突し、よつて原告主張の日亡稔が死亡したことは当事者間に争いがない。
二、被告斉藤の過失
(一) (証拠―省略)によると、本件事故現場は勝閧橋方面より晴海埠頭方面に通ずる道路と深川豊洲方面から晴海町六丁目埋立地に通ずる道路が直角に交差する通称晴海三丁目交差点であること、いずれの道路もその全幅員が五〇米でその中央は幅員六米の緑地帯、その両側は各一六米のコンクリート舗装車道、更にその両端は幅員六米の歩道となつていること及び見通しの状況は良好であることが認められる(別紙図面参照)。
(二) (証拠―省略)によると、被告自動車はけん引車と台車に分かれ、これを連結した場合の全長は約一五・八米であることが認められる。
(三) (証拠―省略)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告斉藤は、被告自動車を運転して晴海埠頭方面から本件交差点附近に至り、時速約二〇粁で深川豊洲方面に右折すべく、別紙図面①附近に至つた際、勝閧橋方面から対向して本件交差点に進行中の原告自動車を発見したが、原告自動車が本件交差点附近にくるまで右交差点を通過し得るものと判断し、そのままの速度で進行して同図②点附近に至つた時原告自動車が近距離に接近しているのを認め、危険を感じて直ちに制動措置を採つたが及ばず、六米余りスリツプして同図×点附近で停止すると殆んど同時に被告自動車の前部に原告自動車が衝突したことを認めることができる。証人(省略)の証言中右認定に添わない部分は前掲各証拠と対照して措信し難く、外に右認定に反する証拠はない。
被告斉藤が運転していた本件自動車のように全長一六米余りもあるトレーラートラツクを運転して交差点を右折しようとして対向する車輛を発見した場合は、自己及び対向車の速度と位置、その進行方向、道路の幅員及び特に自己の車輛の長さと性能等を考慮し、衝突のおそれがある場合は直ちに急停車し、もつて事故の発生を未然に防止すべき義務がある。しかるに、被告斉藤が、前記①′点附近に達して原告自動車を発見した際、原告自動車と被告自動車の速度と位置、その進行方向、道路の幅員及び被告自動車の全長と性能等からすれば当然衝突のおそれがあることを予測し得たと認められるにも拘らず、前認定のように原告自動車の前方を通過することができると判断しそのまま進行したことは軽卒のそしりを免れない。そして被告斉藤が前記①′点附近で直ちに急停車すれば本件事故の発生を防止し得たであろうと認められるから、その際における亡稔の運転上の過失は暫くおき、被告斉藤の右過失が本件事故の一因をなしているものと謂わなければならない。(なお、被告等は、衝突直前の原、被告自動車の位置とその態勢から、被告自動車が道路交通法第三七条第二項のすでに右折している車輛に該当するから原告自動車の側で停止すべきであつたと主張するが、前掲(証拠―省略)によれば、被告斉藤が前記①′点に達して原告自動車を発見したときの被告自動車の態勢は、その先端がようやく道路の中心線に達するか達しないかにすぎなかつたことを認めることができ、この時すでに被告自動車の側で停止すべきであつたことは右に判示したとおりであるから、その後の推移は被告斉藤の右過失に消長を来さないと謂うべきである。)
そうしてみると、被告斉藤は、民法第七〇九条の規定により本件事故によつて生じた損害を賠償する義務あるものといわなければならない。
三、そして、請求原因第三項のうち被告斉藤が被告会社の運転手で、被告会社所有の本件自動車を運転して被告会社の業務に従事中、本件事故が発生したものであることは、当事者間に争いがないから、被告会社は、自動車損害賠償保障法第三条但書所定の免責要件のうち加害者の過失以外の点について判断するまでもなく、同条本文の規定により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。
四、損害
(一) (証拠―省略)によると、亡稔は本件事故当時訴外有限会社月島製作所に勤務し、給料月額一八、〇〇〇円を得ていたことを認めることができ、右給料月額と前掲原告本人尋問の結果によつて認め得る亡稔の年令、家族及び生活状態等からすると、亡稔の一ケ月当り純収入を算定するにあたり、収入額から控除すべき生活費が金八、〇〇〇円であるとする原告等の主張は相当と謂うべきであるから、亡稔は本件事故当時月額金一〇、〇〇〇円の純収入を得ていたことになる。そして成立に争いのない甲第一号証によると、亡稔は本件事故当時満二一才一一ケ月余(昭和一五年一一月二三日生)の男子であつたことが認められ、又厚生大臣官房統計調査部刑行の第一〇回生命表によれば満二一才の男子の平均余命は四七、五八年であるから、亡稔は本件事故がなかつたとすれば少くとも右平均余命年数の間生存しえたというべく、諸般の事情に照せば、その間六〇才に達するまで、すなわちなお三九年間就労可能であつたものと認められるから、亡稔はこの間前記の割合で収益を挙げ得たものと認むべきである。そうすると、亡稔は本件事故により右一ケ月当り純収入額を基礎として計算した三九年間の純益合計金四、六八〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失つたものと謂うことができるが、これをホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除し、一時に請求する金額に換算すると金一、五八六、四四〇円となる。
(二) 葬式費用
(証拠―省略)によると原告吉松は亡稔の死亡により(1)会食費金三〇、五五二円(2)葬祭料金七一、六三〇円、合計金一〇二、一八二円の支出を余儀なくされたことを認めることができる。しかし(3)手伝謝礼金六、〇〇〇円の支出についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
(三) 入院費
(証拠―省略)によると、原告吉松は本件事故発生の日から死亡の日まで亡稔を訴外栗田外科病院に入院させ、その入院費として金八三、四〇〇円を支出したことを認めることができる。
ところで、さきに第二項で認定した事実よりすれば、本件交差点附近の見通しが良好で、亡稔は対向して進行する全長一六米余りに及ぶトレーラートラツクである被告自動車を本件交差点に至る相当手前で発見し、且被告自動車が既に別紙図面①点附近から同交差点中央に向つて右折するのを認め得た筈である。従つて、亡稔としては被告自動車の動向に注意して徐行し、場合によつては一時停止する等(本件の場合は亡稔が徐行して進行すれば被告自動車の前方を迂回して進行することも不可能ではなかつたと認められる)事故の発生を未然に防止するよう注意すべきであつたにも拘らず、亡稔がこれらの注意を怠つたため被告自動車と衝突するに至つたものと認め得るので、亡稔の右のような過失もまた本件事故の一因をなしたものと謂うべきである。
よつて、亡稔の右過失を考慮し、原告等の蒙つた前記各損害のうち被告等の賠償すべき額は亡稔の(一)の損害のうち金七九三、二二〇円、原告吉松の(二)の損害のうち金五一、〇九一円、(三)の損害のうち金四一、七〇〇円を以つて相当と認める。
なお、原告等が亡稔の唯一の相続人であることは当事者間に争いがないから、原告等は亡稔の死亡により右(一)の損害賠償債権のうち二分の一宛すなわち、各金三九六、六一〇円を相続によつて取得したことが明らかである。
(四) 慰藉料
前掲原告本人尋問の結果によると、原告等は唯一の男子であつた亡稔を本件事故によつて失い、多大の苦痛を受けたことを認めることができるので、この事実と右本人尋問の結果及び前掲甲第一号証によつて認めることのできる原告等の職業(原告吉松は訴外有限会社月島製作所(資本三〇〇、〇〇〇円)の代表者)、原告等の年令(原告吉松は明治三九年一一月一四日生、原告セツは明治四二年二日生)、家族の状況(すでに他家に嫁した三女及び結婚適令期にある四女の二子がある)、前記認定の本件事故の態様、当事者双方の過失その他諸般の事情を総合すれば、原告等のうけるべき慰藉料はそれぞれ金三五〇、〇〇〇円を以て相当と認める。
五、従つて原告吉松は金八三九、四〇一円を、原告セツは金七四六、六一〇円の損害賠償債権を取得したところ、原告等が自動車損害賠償責任保険から各金二五〇、〇〇〇円の給付を受けたことは当事者間に争いがないから、被告等は各自原告吉松に対し金五八九、四〇一円、原告セツに対し金四九六、六一〇円及び右各金員に対する本件訴状が被告等に送達された翌日以降である昭和三七年七月二九日以降右完済に至るまでの民事法定利率年五分の割合の遅延損害金を支払うべき義務がある。
よつて、原告等の本訴請求は右の限度で理由があるから正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条第一項、仮執行宣言につき同法第百九十六条第一項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二七部
裁判長裁判官 小 川 善 吉
裁判官 吉 野 衛
裁判官 茅 沼 英 一